上遠野浩平のブギーポップシリーズと共に、電撃文庫、ひいてはライトノベルの代表的な作品となった人気作。
人間キノと、言葉を話す二輪車エルメスによる旅の物語である。一つの国には三日間、そう決めて旅する二人(?)は、いろいろな国のいろいろな人々と出会う。それは楽しいことばかりではない。いや、むしろ、辛いことや悲しいことの方が多い。でも、キノは旅を続ける。止めるのはいつだってできるから。
六話の短篇からなる本書は、良い意味で期待を裏切る作品である。アニメ化もされ、主に中高生に人気のある作品だという前情報から想像したのは、ファンタジー色が強く、スピード感があって、派手で明るくコミカルなアクションノベルであった。しかし、実際に読んでみると、その正反対であることを知り、驚いた。
冷静でどことなく儚げなキノが訪れる国々は、どれも微妙に歪んでいる。一見ファンタジックとも受け取れるその歪みは、現実の社会に潜んでいる歪みを一方向に引き伸ばしただけのものだ。だから、実に現実的であり、同時に虚しさを感じさせる。どの国の物語も、皆一様に虚しい。楽しそうな国は登場しないのである。
そんな国を旅するのだから、読んでいて楽しいというよりは、苦しい。そして寂しい。だけど、続きが読みたくなる。この力はどこにあるのだろうか。キノの力強い意思から湧き出ているのかもしれない。とにかく、不思議な味を持った小説であることは否定し得ない。
ただ、全体的に単調になってしまっているのが残念である。上述したような傾向を持つ作品だから仕方ないのかもしれないが、もう少し起伏を持たせても良かったのではないかと思う。
一方、構成についてはかなり綿密に考えられているようで、後半の展開に驚かされると共に、謎が生まれ、その謎に惹きつけられてしまった。その謎に関してはしっかりと伏線が張られているので、矛盾はないが、それゆえに謎が深まるという重層的な構造になっている。プロローグ、エピローグも上手く出来ていて良かった。
ライトノベルと言っても、一般的な小説に匹敵する力を持っていることは多い。「ライト」であると自己定義することによって、型通りではない、冒険的な作品が生まれるのかもしれない。
クロスカディアシリーズ完結。「月」へとたどり着いたメイたち一行は、新たな仲間を得て、封印された両親のもとへと向かっていく。
最終巻にきて、大展開があった。神という存在の意味、そして、メイという存在の意味。その本来の意味が暴かれ、そこからメイが生き延びる方法も発見されたのだ。そして、心地よい結末が訪れる。
神坂一には、いわゆるライトノベルと呼ばれる作品群の典型のような作品が多い。簡単に言えば、読みやすく、面白い、ファンタジーである。しかし、彼の作品には、深いテーマが潜んでいることが多い。それが笑いの要素と相容れず、ぎこちない作品になってしまうこともあるのだが、大部分においては、とても上手く融合している。
このクロスカディアシリーズも上手くいった例だろう。記憶を無くしたメイという少女を中心に据え、しかも彼女が命をねらわれている上に、実は神々によって捨てられた子であったという設定だと、ややもすると暗くなってしまう。しかし、そのメイが自分のことを悪人と名乗る、不思議な性格であるというだけで、一気に笑いの要素が大きくなる。結果として、最後まで暗くなりすぎずに楽しめる作品となっている。
しかも、最終巻で明かされるこの作品の真のテーマは、「小説」に常につきまとうとても大きなものだ。日本ミステリの世界でも、同様のテーマは以前より議論され、それを経て、新しいタイプの作品群が登場し、大きな発展へとつながった。そして、それはいまだ解決されないまま、大きく横たわっている。そういう、あまりに大きなテーマが作中に埋め込まれていたのである。
このシリーズでは、中盤以降、多少もたつく部分がある。だがそれも、このテーマを念頭において作られた結果であろう。同様に、作中には数々の伏線が盛り込まれており、ただ面白いだけの作品とは決して言えない。
もちろん、小説である以上、特にライトノベルである以上、面白いことは大前提である。どんなに深遠なテーマを持っていようとも、読者が楽しめなくては駄作である。だが逆に、面白いだけの作品というのは、読んでいて物足りないし、結果として大量消費の中に埋もれてしまう。それはそれで良いが、やはりどちらも兼ね備えた作品を読みたい。その点、神坂一の作品は、読んでいても面白いし、読み返しても面白い。かといって、面白いだけではなく、何かしら心に残る部分を秘めている。
小説を書くということを真摯にとらえている作家なのだろう。彼がすごいのは、そういう部分を微塵も見せず、あたかも気軽に、思いつきで書いているように見せているところだ。この本の「真なるあとがき」には、彼の創作姿勢が表れているような気がする。
とにかく、神坂一には今後も注目していきたい。





