作家の文体研究や文章表現研究などで著名な著者による文章読本。
「裏返し文章読本」という副題の通り、悪文にスポットを当てているところが面白い。良い文章を書くために、良い文章を読むことは重要だが、同時に、悪文を知ることも必要だ。悪文とはどのようなもので、なぜ悪文になってしまうのかを理解していれば、自ずと良文・名文を書くことができる。また、悪文を見過ごしてしまう確率も減るだろう。
その悪文について、様々な観点から説明されており、大変分かりやすい。だが、指導書というよりは読み物的な性質が強いので、実際に文章を書いていてどう直したら良いか分からない時に調べるというような使い方には向かないと思う。読み物として楽しみながら読むことで、文章を書く時の態度や注意点を身に付けられる本なのである。
昨今、ブログが急激に普及し、誰もが文章を書き、それを発表できるようになった。そのような状況の中で、気軽に読めて、かつ実践的であり、なによりも「書く」ことに対する意識改革にも役立つ本書は、恰好の文章読本と言えるだろう。
1963年に「機密」で宝石中篇賞、1966年に「殺人の棋譜」で乱歩賞を受賞し、その後もタロット日美子シリーズなどで支持を得ている斎藤栄。本書は彼が書いたミステリー作法の指南書である。ミステリーそのものの定義や歴史から始まり、発想法、取材法、メモの取り方、トリック論など、具体的なテクニックが分かりやすく丁寧にまとめられている。また、著者のヒット作の執筆裏話なども織り込まれていて、作家志望者以外でも興味深く楽しめる一冊と言えよう。
全体的に、作品ができるまでの過程が大変丁寧に書かれているので、とても面白い。特に題名の付け方に関する話は大変興味深かった。また、様式美を重んじるという日本の伝統的な考え方とミステリーとの関係についての指摘も大いに納得させられた。
だが、著者が生み出したという「ストリック理論」については初耳である。ストーリー自体がトリックになっていて、ストーリーとトリックを分割できないような小説を「ストリック」と名付け、ミステリーは「ストリック」を重視すべきだというような意見だ。「この意見は私だけが提唱したもので、他の人は賛成していない」と書かれているが、私は妥当性のある意見だと思う。ただ、「ストリック」というのは「叙述トリック」とほとんど同じようなので、現代では格別新鮮な意見とは思えない。もっとも、これが提唱されたのは1968年に講談社より刊行された『虹の幻影』のあとがきの中だそうなので、当時は新鮮だったのかもしれない。
作家志望者向けに書かれているというよりは、ミステリーを愛する人全般に向けてかかれているような気がする。それは、タイトルにも表れているのではないだろうか。『ミステリーを書いてみませんか』というのは、今までミステリーを書いたことのない人への呼びかけであろう。読むだけで満足している人に対して、書くのはもっと楽しいですよと声をかけてくれているのだ。事実、本書を読んでいるうちに、自分にも書けそうな気がしてくる。現実にはそんなに簡単なものではなかろうが。





